比叡山から京都(2) ~仏像と襖絵を巡る旅~

二日目は京都で仏像と襖絵を巡る旅。まずは、京都駅から歩いて15分ほどにある東寺。弘法大師空海が嵯峨天皇から託された密教寺院。金堂の薬師如来、月光菩薩、日光菩薩に手を合わせる。張り詰めたような空気の中、暫くお顔を拝見しながら心のなかで語り合う。続いて、講堂の立体曼荼羅を鑑賞する。中央の大日如来の麗しく穏やかな表情に癒されつつ、四天王と菩薩の力強さ、不動明王の勇ましい姿に心酔する。至高の時間と空間を堪能した。帰り際、売店で数珠を購入。光の加減で黒に見えたり茶に見えたりする風合いが気にいった。満ち足りた気分で颯爽と次の六波羅蜜寺へと向う。

六波羅密寺は歴史の舞台に何度も登場する曰くつきの密教寺院。運慶が根城を置いていたことでも有名だ。本堂の参拝もそこそこに、令和館に向かう。最初は開創者である空也上人のユーモラスな像。空也は京都の疫病を救うなどたくさんの功績が記録として残っている。富や名声を望まず、ただただ人の為に生涯を捧げた高僧だ。その他、空海像、閻魔大王像、運慶とそのご子息の坐像、定朝作の母親の髪を携えた地蔵菩薩立像、薬師如来立像、平清盛の坐像など見どころたっぷり。だまって通り過ぎるには惜しい寺院だ。
次の訪問先は広隆寺。京福電気鉄道で大谷駅から太秦広隆寺前駅へ。料金は市内バスのように降りるときに車内で払う。近代都市京都にあって独特な風情のある電車だ。駅の目の前に広隆寺はある。お目当ては、弥勒菩薩半跏思惟像。国宝第一号として知られる仏像であり、その思索にふけったお姿は神々しくて美しい。民衆を疫病や災難から救う為に、身代わりとなって悩み苦しんでおられる。その他、巨大な薬師如来立像、地蔵菩薩坐像、虚空菩薩坐像などが講堂の壁沿いに並ぶ。実に神々しい景色だ。静かで心休まる空間が楽しい。

再び大谷駅に戻り、歩いて二条城に向かう。二条城では沢山の襖絵を見ることが出来る。観覧して気づいたのだが、ほとんどの襖絵は模写であり、本物はしかるべきところにしまわれているらしい。本物と区別出来るかといわれると、出来ないとは思うが、やはり本物を見るということに価値があると思う。いくらか興覚めしたが、柱や天井、畳の色合いと襖絵の調和は美しく十分見ごたえはある。本殿には、人形が設えてあり臨場感たっぷり。当時の様子を想像して歴史の一場面を堪能した。

今日の最後は智積寺。京阪線の京阪七条駅から東に歩き、三十三間堂を通り過ぎた所に智積寺はある。お目当ての襖絵が見られる宝物館は本堂とは別の所にあり、白壁の近代的な建物だ。展示室に入った瞬間、四面の壁いっぱいに展開する襖絵の雅な美しさに息を飲む。桃山時代を代表する襖絵師、長谷川等伯とご子息の久蔵、弟子の一間らの渾身の作だ。風にそよぐ枝葉の動きや葉音が聞こえてくる。林が目の前に迫ってくるようなリアリティを感じる。しばし、立ち止まって絵に没入した。